そろそろ当初の目的であった税金について何か書かなければと思います。

前置き

税金について勉強するためのお手軽な入門書として、この本がありました。昔この本の平成7年度版を買いましたが、残念ながら現在は改訂されていないようです。
税の常識〈平成13年度版〉 (日経文庫)

こういう本は、網羅的で専門家や勉強する人には有益なのですが、非常に眠くなるのが欠点です。なぜか強力な催眠作用があります。このブログでは、こういった本からは、必要な時だけ引用するにとどめて、私流の説明を試みます。

税理士は、ビジネスの当事者であるけれども税法の知識のない人に、わかりやすく説明ができて収入が得られます。日頃お話をしていると、前提知識として知っていてほしいと思うことがあるので、そういうことをこのブログに書いておきたいのです。眠くなったらすいません。

申告納税制度

私が考えるに、税体系の中で一番根本になる重要な概念は、申告納税制度です。対になる言葉は、賦課課税制度です。

申告納税制度とは、国が納税者に自分で税金の計算をさせて、納税させる制度です。

まず国と納税者の関係が最初にあり、納税者が税法に基づいて税金を計算する義務を負います。次に、自分で計算できない納税者(大部分の人が該当)は、税理士に依頼します。

申告納税制度は、戦後、青色申告制度などによって普及した制度で、民主的な制度とされていて、国側からも納税者側からも好意的に定着しています。法人税、所得税、消費税、相続税などの主な税法は、全て申告納税制度になっています。なぜでしょうか?

穿った見方をすれば、これは行政コストを納税者に転嫁しているのです。まさに画期的です。国は、膨大な計算事務を免れていています。申告納税制度は、とてつもなく行政の効率化に貢献していると思います。

では、納税者は文句言わないのか?あんまり聞きません。それよりも世間では、消費税率アップ反対の声の方がはるかに大きいですね。

なぜ申告納税制度なのか

ではなぜ申告納税制度が受け入れられているのか、理由を考えてみます。

実は、申告納税制度が採用されている税は、計算が複雑であり、しかも、計算に必要な事実関係の証拠を納税者側が持っているものばかりなのです。申告納税制度ではない税を2つみてみましょう。

固定資産税は、不動産の評価を全て市区町村がやっています。土地の情報は全て公になっているから、納税者ではなくても計算できます。固定資産税は、市区町村が計算した方が、確実に税を徴収できるのです。市区町村の代弁をすると、例えコストをかけてでも自ら計算した方が確実で、よく間違いをする納税者には任せておけないのです。

個人の住民税は、勤務先から年末調整の情報が送られてくるか、税務署から所得税の確定申告書のコピーが送られてくるので、市区町村が計算しています。

これらの税と比べて、申告納税制度の税はどうでしょうか。法人税と所得税は、1年間の全ての経済活動を記録集計して会計判断を加えないと所得金額がわかりません。相続税は、故人の全ての財産債務を把握しないと計算できません。

課税に納得が全てに優先

ここまで論を進めた上で、まとめておきたいことがあります。

申告納税制度は、決してベストな税制ではないのです。現状でベターだから、もっと他にいい案がないから採用されているに過ぎないのです。ベストな税とは、客観的に簡単に計算できて、納税者がその課税に納得できるものと定義できます。

申告納税制度の税は、実は、納税者がその課税に対して納得して受け入れている税であるということが、他の全ての欠点を補ってあまりある存在理由だと思います。国にとっても、納税者にとっても。

比較のために、消費税を例にとりましょう。消費税、計算は複雑ですが、それは事業者にやらせています。納税者は、ただ消費税を払うだけなのですが、消費に対して税を払うということに納得がいきません。だから、いつも消費税率の話になると、政治的に反対されます。過去には消費税を実施するために、政権が何度か倒れています。

儲けたら税金を払う、これは仕方がない。多額の相続財産があったら税金を払う、これは仕方がない。納税者がこう考えることが、申告納税制度の基礎になっているのです。

さらに付け加えるならば、納税者はそんなに細かいことまで、税務署に知られたくないのです。

だから、税金の計算が面倒だから嫌とも言わず、現在の制度が定着しているのだと、私は考えています。

後書き

申告納税制度によって、納税者に悲喜交々が生まれ、税理士もこの制度の中で生かされています。前回の記事の脱税と節税の間のグレーゾーンも、この申告納税制度が本質的に持っている欠点により生じてきます。

書きもらしたこともあると思いますが、申告納税制度について説明できたので、以後、これを前提として、話をすすめていけそうです。

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公開2007-11-17 税法と法律