会計と消費税法の両方の知識が必要で非常にマイナーな論点なので申し訳ないですが、備忘録として書きとめておきます。消費税を税込経理している場合に、棚卸資産も税込金額で計上すると考えるのが普通ですが、棚卸資産を税抜金額で計上した方が、消費税法上の考え方に則っていますし、会計上の利益も正しくなりますよ、という話です。

消費税法の考え方

消費税には、貸借対照表という概念や、期間損益の配分という概念はありません。消費税法に明文として書いてありませんが、そういうものです。そのかわり、期間損益の配分に類する調整事項が限定列挙されています。(条文省略)

つまり、本質的に貸借対照表の資産科目に消費税が含まれると、それは間違いとはいえませんが、会計上微妙に望ましくない状態になります。

会計のモデルによる検証

ここで会計のモデルをつくって、実験してみます。実験条件としては、税込経理、当期損金算入と設定します。税込経理では翌期に損金算入することが多いのですが、ここでは当期に損金算入とします。税込経理でも当期損金算入ならば、税抜経理と同じように正しい当期利益を計上することができるからです。

▽ モデルA :まず、基本形

売上高 210
租税公課(消費税) -) 10
当期利益 = 200

▽ モデルB:次に、仕入れがある場合

売上高 210
仕入高 -) 63
租税公課(消費税) -) 7
当期利益 = 140

消費税は下記のように計算します。実験なので地方消費税や端数処理は無視です。
210×5/105ー63×5/105=7

さて、ここで問題です。もしこの仕入が全額在庫として残っていたとしたらどうなるでしょう?

▽ モデルC:棚卸資産を税込で計上した場合

売上高 210
仕入高 -) 63
期末棚卸高 +) 63
租税公課(消費税) -) 7
当期利益 = 203

売上原価は63-63=0となり、よさそうにみえますが、はて、当期利益が妙な数字になっています。正しくは、モデルAと同じ当期利益200円になるべきですが、仕入に含まれる消費税3円分利益が増加してしまいました。そこで、

▽ モデルD: 棚卸資産を税抜で計上した場合

売上高 210
仕入高 -) 63
期末棚卸高 +) 60
租税公課(消費税) -) 7
当期利益 = 200

売上原価が63-60=3円でちょっとおかしいですが、最終的な当期利益は正しくなりました。

実務では不可

ここまでの説明で、税込経理でも棚卸資産を税抜で計上すべきという意見に、納得いただけた方もいるかもしれませんが、実務では止めた方がいいでしょう。国税庁の通達で禁止されています。通達を意訳すると、税込経理の場合はすべて税込にすること、と書かれています。(通達番号省略。調べれば見つかると思います)

通達を読むと、微妙にこの論点に触れていないようにも読み取れます。通達を書いた人も上に書いたような内容は当然わかっているでしょうが、恣意的な経理を禁止することを優先したかったのでしょう。理論的に間違っている部分がある通達というのは珍しいというお話でした。

追記

消費税の基本的な説明は、こちらをご覧ください。
» 消費税のまとめ – 税理士の長谷川

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公開2007-09-13 税法と法律