経営本というのは、その知識を活かせる場面があると、ぐっと面白くなるのかなと思います。

まえがき

学生時代には、読んだことを活かす場面がなかったので、そんなに面白さを感じませんでした。

せっかく本を読んだのだから、例え断片的な物であっても、なにがしかのアウトプットをしたいなと、日々痛感しています。

今日は、二つの対照的な経営本を比較してみます。
コピー用紙の裏は使うな!―コスト削減の真実 (朝日新書 37) (朝日新書) 高くても飛ぶように売れる客単価アップの法則―「安くなければ売れない」は間違いです

『コピー用紙の裏は使うな!-コスト削減の真実』

タイトルがいい本です。つい、「いや、そんなことはないでしょう。うちだってコピー用紙の裏紙を使っているよ」などと、頭の中でつぶやいて、手にしてしまいます。

たしかに、読めば、目からウロコなノウハウが沢山書かれています。

だけど、やっぱり、経費削減というのは、後ろ向きな思考だなと、読んでいて感じます。途中で読むのを止めました。

これは、大企業がリストラする時に読むべき本だなと思います。これから成長したい中小企業(私も含めて)が、こんな本を読んでいても、小さくまとまるだけで、経営の肝心な部分から目をそらすことになるでしょう。

節税より経営

コスト削減の一つに節税があります。税理士としては、もちろん、節税に取り組んでいます。しかし、経営者の視点でみると、まず、お客様に何を提供して売上を立てるのか、を最初に考えるべきだと思うのです。節税のために経営をしているのではないですからね。だから、節税の話は、経営に影響を及ぼさない範囲で控えめに提案するように心がけています。

『高くても飛ぶように売れる客単価アップの法則-「安くなければ売れない」は間違いです』

こちらの本は、前向きです。読んでいて楽しくなります。積極的に自分の商売に置き換えて発想してみたら、きっと、気づきが得られると思います。

この本と同じような趣旨のことを、足立区の中小企業を対象とした営業戦略付きホームページ製作業の方が、書いています。
» 客を選ぶから選ばれる。嫌な客は追い返してよい | Web担当者Forum

税理士業における客単価アップ

この本を読むと、客単価アップを実現させる主たる手段は、付加価値アップにあります。それでは、税理士業における付加価値=客単価アップとは、何だろう?と考えます。

これが、なかなかに難しい話なので、少し整理します。

記帳代行は客単価アップではない

会社が税理士を依頼する場合は、どこまでを自分で処理し、どこから税理士に頼むかを、最初に決めます。通常3パターンあります。

  • 領収書の束を渡して記帳を依頼する
  • 手書きした現金出納帳又は伝票を渡して記帳を依頼する
  • PCで会計ソフトに入力して、チェックを依頼する

料金は前者の方が高く、後者の方が安くなります。しかし、単価という視点でみると、領収書からの記帳代行は、時間当たりの単価が安くなります。

私共の事務所に限らず、どこの税理士事務所でもそうだと思いますが、会社でできることは、できるだけ会社で処理を進めた上で、税理士に依頼する、という役割分担を望んでいると思います。顧客にとっても、できるだけ会社で処理した方がいいと思います。

つまり、この選択肢は、付加価値の話ではないのです。

一般的な付加価値

では、何が付加価値なのでしょうか?
一般的には、以下のようなこととされています。

  • 税法・会計などの専門知識を身につける。
  • 上記の知識に基づいた間違いのない書類を作成する体制を作る。例えば、職員の研修など、人的な面で。

たしかに、付加価値なんだけど、この本で話題にしているものとは、ちょっと違う気がします。これらは、客単価アップというより、リスクを減らす効果があります。そして、顧客は、専門家の実力を知ることが難しいという実態があります。

訪問頻度

そうすると、税理士業で、客単価アップにつながる付加価値とは何か?

私が思うに、訪問頻度がこの本でいう付加価値に該当します。年に1回訪問するのか、3月に1回なのか、毎月1回なのか。あるいは、税理士の所長が行くのか、税理士の職員が行くのか、一般の職員が行くのか。

※ ここでは、税理士が訪問する場合も、顧客が税理士事務所に来所する場合も、一括りに訪問頻度とまとめてしまいます。

まず、ベースになる訪問頻度というものがあります。顧客の事業規模に応じて、申告書作成という最低限の業務を遂行するために、必要な訪問頻度が変わってきます。1人で片手間の事業でしたら、年一度の訪問、あるいは、郵送でも何とかなります。5人位の会社だと、3月に一度は会いたいところです。30人以上だと、毎月訪問しないと、きちんと仕事を遂行できる自信がありません。

ベースになる訪問頻度に対して、それ以上に訪問した方がいいと勧めるのが、税理士業の客単価アップです。

歯科医の自費診療

この本で、歯科医が自費診療を勧める物語が秀逸です。

著者「自費をすすめることは、患者さんのためでしょうか?」
歯科「いえ、違います。保険のほうが、患者さんの費用負担は少なくてすみますから」
著者「おかしい…」
歯科「何がおかしいのですか?」
著者「患者さんのためにならないものをどうして勧める必要があるのか、それがわからないんです」

すると、院長は先ほどとは打って変わり、自費の診療がいかにいいものかを熱く語ってくれました。

この話は、税理士にそのまま当てはまりますので、書き換えてみましょう。

質問者「毎月の訪問をすすめることは、会社のためでしょうか?」
税理士「いえ、違います。3月に一度のほうが、会社の費用負担は少なくてすみますから」
質問者「おかしい…」
税理士「何がおかしいのですか?」
質問者「会社のためにならないものをどうして勧める必要があるのか、それがわからないんです」

すると、税理士は先ほどとは打って変わり、毎月の訪問がいかにいいものかを熱く語ってくれました。

ここで、毎月の訪問がいかにいいものかを述べよという設問ができます。

毎月訪問する価値

私には、まだ、歯科医の自費診療ほど明快にその利点を説明できません。たしかに、総合的に考えれば、税理士に毎月訪問してもらった方が会社のためにいいと思います。

毎月訪問をしない方がいいと思うケースもあります。それは、本業がまだ軌道に乗っていなくて、とにかく、まず、利益を出せるように頑張らなければいけない、という会社です。

重要なことは、費用とメリットを両方提示して、顧客が選択できるようにすることです。最初から毎月訪問を前提とした料金で選択の余地なしというのは、いかがなものかと思うわけです。

あとがき

毎月の訪問がいかにいいものかを述べよという設問は、大きなテーマですので、いつか日を改めて、考えをまとめたいところです。

良書は、読者の思考を誘発するものですね。

Cherry blossom time
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公開2008-04-08 税理士業