この本に限らず、マイクロソフトについての本は、ビジネスの物語として面白いです。この本も一気に読めました。また、マイクロソフトを語る時代の証言者が現れたようです。

Amazon.co.jp: マイクロソフト戦記―世界標準の作られ方 (新潮新書): トム佐藤: 本著者のロンドン大学卒業からマイクロソフトで働くに至った経緯と、本のテーマ「世界標準」とが、とてもうまく絡み合っています。ビル・ゲイツ氏が世界標準を成し遂げる過程において、著者がどのような役割を果たしたのかという経験談です。

PCの歴史と自分

昔からPCに興味があったので、ああ、あの頃こんな動きがあったのかと、自分史と照らし合わせる読み方もできます。

8bitのMSXの頃は、中学生だったでしょうか、世界標準を狙っていたとは知りませんでした。ただのゲーム機だと思ってました。失礼。

Windows 1~3.1までの頃は、大学生でしたが、ファイル名に半角8文字しか使えないのが話にならなくて、Macintoshを使っていました。Macは、ゲームもなし。

Windows95が登場した頃は、新入社員でしたが、IBMがOS/2を売るために会計ソフトを売っていました。OS/2の売りは、完全な32bitで、16bitのWin3.1も動くこと。Windows98が出た頃、OS/2の敗退が決定的になったでしょうかね。私は、1996年、Windows95に飛びついてから、現在に至ります。

Windows95が登場したときは、NECの関本会長とMSのビルゲイツが仲良く握手して「98で95」なんて書いたポスターが貼ってありました。当時の私の目から見ても、Windows95がNECのPC-9801天下を終わらせることが明白だというのに、仲良く握手しているとは、マイクロソフトが凄いのか?NECが間抜けなのか?と思ったものです。NECにしてみれば、ごねてもどうしようもない時代の流れだったのかもしれません。

往年のジャストシステム

デファクトを取るというマイクロソフトの戦略は仮想敵を徹底的に粉砕することで知られています。敗者は、ロータスの1-2-3、ジャストシステムの一太郎、ノベルのネットウェア、ネットスケープなどです。ちなみに倒すことができなかったのがGoogleです。無料で使えるから価格競争できません。

その中で一太郎が敗れたことを、今まで私は、ちょっと残念に思っていました。マイクロソフトがOfficeでWordとExcelをセットにして広めたことによってシェアを落としたのが主な敗因と思います。ジャストシステムに自滅要素もありました。一ソフトメーカーの体力を超えて、花子というグラフィックソフトや、三四郎というデータベースを開発して、Officeに対抗し、ユーザーを囲い込もうとしていました。一太郎とATOKに専念していれば、よかったのに。

一太郎が駆逐されたことによって、日本的なワープロ流儀が失われました。Wordの中で欧米流にぶつかる度に、選択肢として国産ワープロが残っていればよかったのにと感じます。

今までジャストシステムに同情的にだった私ですが、この本で更なるジャストシステムの愚行を思い出しました。そうそう、ウィンドウズに対抗するJSウィンドウズというのがありました。一太郎と花子をマルチタスクできるというのが売りでした。当時の私は、ゲームできないから意味ないし、とスルーしていました。

今だから言えるのかもしれませんが、そんなもの開発してないで、もっとマイクロソフトと共存共栄関係を築いていれば、一太郎も充分に生き延びていたかもしれません。残念なことです。

現在、Windowsに付属するMS-IMEは進歩が止まっているようですが、それに対して、ATOKはどんどん使いやすくなってきています。

関連Webサイト

本に登場する人物で、有名ブロガーが二人います。

» 古川 享 ブログ – Windows Live
元マイクロソフト日本法人社長。この本でもゲイツに怒られたという話がちょっと出てきます。

» Life is beautiful
MS本社でWindows95を開発していたという経歴のプログラマー中島聡氏。この本によると、アメリカに渡る前、日本法人で孤軍奮闘していたらしいです。

この本がちょっと読み足りなかったり人は、著者のWebサイトとブログを読むと、違った面を知ることができます。
» Omnipresence by Tom Sato – トムサトウの領域
» とむさとうのコラム集 – livedoor Blog(ブログ)

本にも書いてありましたが、著者は何度か会社をつぶしているようです。この本から勝手に推測するならば、著者は、独立してトップになるのが向かないけれども、誰かの片腕として有能な人のようです。この時代のマイクロソフトという舞台に立ったことで、著者の実力がぐんぐんと引き出され、得難い経験をしてたのではないかと推察します。改めて、大企業の魅力は大きなステージで仕事ができることだと感じます。残念ながら私は自営なのでそういう経験がありませんが。

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公開2009-02-02 ネットビジネス