まえがき

税理士として、経営者から財務や税務についての相談を受けることがよくあります。特に、節税については皆さん関心が高いでしょう。何かもっとうまいやり方があるのではないだろうか?とちょっとした疑心暗鬼になります。

その都度、相手の立場に立って親身に相談にのります。が、税法によってその大枠は決まっており、セオリーというものがあります。そういったセオリーを秘密にして勿体ぶるのではなく、公開してしまいたいと考えています。

というのも、どんなに丁寧に書いても、それを読んだだけで、実行するのは難しいからです。実行するとなれば、やっぱり、税理士に相談しないと心配になります。

むしろ、セオリーを共通の認識として、その上で、この会社の場合はどうかと、個別に相談できた方が有意義になります。そういう趣旨で、前回は、設立について書きました。
» 会社設立の相談に応えて
» 会社を設立した後の手続き

検討の対象

今回は、中小企業が、新しいグループ会社を作ることを検討いたします。

複数の会社を経営している方は、結構いらっしゃいます。既にある会社については、普通は、そのまま維持すればいいと思います。

行政上の許認可対応など法的に複数の会社が必要な場合などは、検討の余地なく、法人を設立するでしょう。

一応先の述べておきますが、税理士の商売としては、会社が沢山あった方が、仕事が増えていいんです。ですが、それは、脇に置いておいて、経営者にとってどうなのかを考えます。

最初に結論

いろいろと書き始める前に、一応、結論を先に書いておきます。

中小企業は、できるだけグループ会社を作らない方がいいと思います。

税務上のメリット

グループ企業を作ることによる、節税効果はあるでしょうか。ないとは言いませんので、思いつくものを書き出してみます。

  • 法人税・住民税・事業税の累進課税部分の税率が下がる。例えば、法人税で、所得金額が年間8百万円以内の部分について、税率が30%から22%になる。これに連動して住民税も減る。事業税も減る。
  • 法人税の交際費について、年間4百万以内の部分が90%経費になる。4百万円を超えた部分は、全額経費にならない。
  • 設立初年度、次年度の消費税が免税になる。
  • 年間売上高が1千万円未満なら消費税が免税になる。
  • 年間売上高が5千万円未満なら消費税で簡易課税を適用できる。
  • 新しい会社は、3期目の決算が終わるまで、比較的、税務署が税務調査に来ない。

それなりに魅力的な節税効果ですね。

税務上のデメリット

逆に、デメリットも上げてみましょう。

  • 年間7万円の住民税均等割が2倍になる。
  • 損益通算できない。例えば、グループに2社あり、1社は毎年黒字、もう1社は毎年赤字だったとしましょう。黒字の会社は毎年税金を払わなければなりません。もし、1社内の2部門でしたら、損益を通算した後の利益に対して税金が生ずるだけです。
  • グループ会社間の取引は、客観的に合理的な金額でなければならない。グループだからといって、なあなあで済ませることはできません。むしろ、1社ならば、社内取引だったものが、2社に分けることによって、合理的な取引金額を算定しなければならなくなります。
  • 会社の維持コストが2倍になる。経理・登記・税理士報酬・決算書作成・申告書作成などに、概ね2倍の手間とコストを要することになります。
  • 最初の1社を作ること(法人成り)による節税メリットは、2社目を作っても増えません。

経営上のデメリット

  • ブランド効果・社名の周知度が分散します。
  • 財務諸表が別々になり、全体像をつかむことが、ますます難しくなります。

大企業は除く

では、なぜ大企業は、沢山のグループ企業があるのでしょうか。

  • 人員が充実している。というか、出向・転籍・定年再就職など人事がしやすい。
  • 高給な本社正社員を増やしたくない。
  • 連結対象から外したりして、有価証券報告書を操作したい。

どれも中小企業には関係ない話ですね。

よくあるケース

中小企業でよくあるのは、経営者個人の資産管理会社を作るケースです。会社が成長すると、社員が増えて、会社が公(おおやけ)になってきます。そこまでいくと、多少の費用は気にならなくなるかもしれません。

総合判断

税務上のメリットとデメリットは、金額で客観的に比較することができませんけれども、メリットはすべて限定的であるのに対して、損益通算できないデメリットはかなり大きな金額になる可能性があります。維持コストは、人件費などを正確に算出することはできませんが、年間100万円~200万円は要すると思います。差し引きすると、税金については、デメリットの方が大きいと思います。

さらに、目に見えにくいですが、経営上のデメリットも大きいと思います。

1社だけなら、会計に対する充分な知識がなくても、自分の会社であることから、なんとか決算書の全体像を理解できていても、2社以上になると、本格的な会計の知識がないと、数字が増えすぎて、把握できなくなります。

そして、経理などの手間が2倍になっても、それは何ら利益には貢献しません。

最後に私の感想ですけれども、あまりグループ会社を活用している方を見かけないんですよね。1社に集中した方がよかったのではないかなと、よく感じます。

一概には言えませんが、少なくとも、別々の人員、経理担当者、現場管理職がいるだけの規模でない限りは、止めておいた方がいいのではないか、と思います。

am I in the right line?
CreativeCommons Attribution-NonCommercial-ShareAlike License, Steve Wall

公開2008-06-04 税法と法律