この本を知ったのは、たまたまみていたNHK教育TVでした。面白かったです。
最近のマイブームは読書の秋です。立て続けに良作に巡り会えたので、忘れないうちに読書感想文を書いておきたいところです。客観性を要求される書評はできませんので、あくまでも主観的な読書感想文です。
新書なので一気に読めました。私が興味を持ったポイントは次の点です。
- 江戸時代の武士のリアルな暮らしぶり
- 会計や事務処理の歴史的な価値
- 明治維新の武士階級に対する影響
武士の暮らしぶり
要するに、慣習で雁字搦めになっていて、生産的とはいいがたい。という状況が詳細にこれでもかと書かれています。江戸時代には既に武士の既得権益は失われていたという結論に至ります。
『武士の家計簿』を読んだら、以前にみた映画『たそがれ清兵衛』への理解が深まりました。なんで、借金したり、刀を売ってまで、親の葬式に金をかけてるんだろう?とか。貧乏なのに下男、下女がいるのか?とか。
会計や事務処理の価値
武士の実態は官僚だったようです。しかし、驚くべきことに、算盤のスキルは上流武士からは軽視されていたそうで。この本の主人公猪山家は、代々下級武士の御算用者として日陰の存在であったのが、時代が近代へと移るにつれ、大規模な組織・軍隊ではより事務能力が必要とされるようになり…というサクセスストーリー。
ラストが悲惨な末路ではなく、ハッピーエンド的に終わるのは、読んでいて嬉しいかったです。
明治維新後
明治政府役人が素晴らしい既得権益を得ていたことがわかります。猪山家は、幕府側の前田家の家臣であったにもかかわらず、政府軍に就職口を得ることができましたが、格式だけでスキルがなかった武士は悲惨の一言。それと、お受験の原点はここにあり。
読んで考えたこと
時代毎に必要とされた価値感の変遷を私の独断で示してみます。本の内容からは離れますが、この本を読んで考えさせられました。
戦国時代:武勲。
江戸時代:武士よりも町人で商売。信用第一。
明治維新:薩長閥。時代に対する問題意識。
明治時代:学歴と官僚。
戦後:学歴と大企業。
バブル後:起業ができるようなビジネススキル。
この本は、私より1つ年上の日本史学の先生が書いたもので、随所で今までの学問研究と比較するなどして学問的な厳密さを失わずに、それでいて、全編にわたって現代の問題意識で書かれている点が素晴らしいです。なので、著者はおそらく日本史学会の先輩教授達の評価を失わずに、一般書籍として普通の人にも楽しめる内容になっています。
著者がこの16万円の貴重な古書を助成金で購入できたくだりには、こんな気持ちがにじみ出ています。
\(^o^)/
こういっては失礼かもしれませんが、 このことからもわかるように、現代における若い学者は決して高額所得者ではないだろうと推察しますが、そのことが、この貧乏武士の研究をより充実したものにしていると思いました。