これは、ためになる本だ。自分に必要な本だ。止まらなくなったので、夜3時までかかって最後まで読んでしまった。けれども、この本の考え方からすれば、そんな夜更かしをする生活は駄目なのだ。反省。
さて、このタイトルは釣りだ。このタイトルでは、仕事ができる理由のひとつは筋トレにあったという説明を想像するだろう。実際の内容はちょっと違う。最初に筋トレありきなのだ。筋トレの効能を説いた解説書なのだ。しかし、そこは書籍マーケティングの巧さに感心するおまけであって、これ以上突っ込むのは野暮というものだ。
どのページも素晴らしいのだが、特に感心するのは、トレーニングをする目的に関する考察だ。根性論はまったくない。自分に向き合う・顧客に向き合う著者の洞察力が冴え渡っている。
最初にトレーニングを始める動機は、「もてたい」「痩せたい」「健康診断の数値をよくしたい」。それが、トレーニングを続けている人は、「トレーニングをしていると体調がいいのでこの状態を維持したい」「頭が冴えるし、気持ちが前向きになるのでトレーニング続けたい」となるそうだ。著者は、目的は続けることだという。この辺の考察は、習い事をコーチする人になら誰にでも、役に立つだろう。
トレーナーという職業は、税理士にも似たところがある。例によって比べてみよう。
トレーナー = 税理士
筋トレ = 会計・税金
会計・税金は、法で定められているからやるという面がある。しかし、税理士に外注して最低限の労力をかければそれでいいかというと、そうではない。税理士の話をよく聞くなどして、会計・税金の知識を得ていくことが、経営を続けていく上で、役に立っていく。どのように役に立っていくのかが、筋トレと非常に似ている。
時間とお金を投資して筋トレをしても、何が得られると保証されていない。例えば、もてるとか健康の維持とか体重の減量とか。この説明は本書に譲ろう。同じように、会計・税金を勉強したり、会社の計算をしても、そのことで利益を得られるわけではない。
その点、経営コンサルタントを雇う理由は、明確だ。利益を上げるためである。目に見える効果が得られなければ、切られてしまう。これに対して、税理士の場合は、もっと曖昧である。たしかに、できるだけ安い税理士を探している人もいる。しかし、値段だけではない何かで税理士を選んだ経営者は、その何かに対して、税理士の最低料金との差額を支払っているといえる。
例えば、自分の会社の決算書をみても何がなんだかさっぱりわからないと感じて、会計・税金を苦手にしている経営者は多い。それでも、税理士にお金を払って、ミーティング時間を確保して、会計・税金に向き合っていく。いや、いただいてます。それは、経営に必要なことだと思う。
会計・税金に取り組んで得られることのひとつは、会社を財務的に知ることができるためだ。会計を知らなくても、営業出身の社長なら、営業担当の報告を受けることで、会社の現状を知ることができる。研究部門出身の社長なら、研究所の状況で知ることができる。製造出身なら、工場で知ることができる。というか、営業・研究・製造というのは、経営そのものを構成している。会計は、ちょっと上位概念で、経営の状態を知るために行われる。決算書を作ることが経営ではなくて、経営の結果を決算書にまとめているのである。
ともあれ、筋トレによって、自分と向き合い、自分の肉体面を知っていくことができるのと同じような効果が、会計にもあると言えるだろう。
おわりに
他にも、トレーナーらしい考え方が随所にみられる。例えば、著者は、意思決定は計算的に行われるものではなく、感覚的に行われるという。心身を鍛えて、健全に保っていれば、直感力が働いて、正しい判断をしやすくなる、という主張だ。こういうのは、信じられない人には受け入れられないかもしれないが、私は、なるほどと思う。
今、トレーニングをしたいと猛烈に考えている。ネットや勉強から得られることだけでは、限界を感じている。肉体面を含めた生活の質全体を向上させることができれば、仕事にも成果が現れるのではないだろうか。
きっと、トレーニングに王道(近道、安易な方法)がないように、ビジネスにも王道がないでしょう。