消費税の経理処理には、税抜経理と税込経理と二つの方法があります。一般的に、税抜経理の方が難しいとされています。最近、やっぱり、明らかに税抜経理の方が難しいケースに当たりました。
消費税の実務のメモです。経営者の方はマニアックすぎるので読まないでください。
普通の税抜経理
会計ソフトを使っていると、税込経理でも税抜経理でも、どちらでも手間は同じです。会計ソフトでは、仕訳の都度、自分で消費税を手計算する必要はなく、すべて税込金額で入力して、会計ソフトが全自動で消費税を処理してくれるからです。
例えば、以下の売上の仕訳を入力しますと、
売掛金/売上高 10,500円
自動的に以下の二つの仕訳に分解してくれます。
売掛金/売上高 10,000円
売掛金/仮受消費税 500円
以上のとおり、通常の取引においては、税抜経理でも税込経理でもどちらでも難易度に変わりはありません。
難しい税抜経理
ところがです。固定資産を売却するケースを考えてみてください。税込金額を使うことができません。
例1.簿価300円の建物を525円で売却するケース
消費税額がわかりやすい売却価額にしてみました。
税込経理ならば、以下の仕訳になります。比較的簡単です。
現預金/建物 300円
現預金/固定資産売却益 225円
ところが、税抜経理だと、税込金額で上記のように仕訳しても、消費税額分だけ建物の残高が残ってしまいます。
税抜経理ならば、税抜金額で以下の仕訳になります。
現預金/建物 300円
現預金/固定資産売却益 200円
現預金/仮受消費税 25円
建物勘定から売却した建物の簿価を確実に差し引くためには、自動計算ではなく、簿価ぴったりの金額を税抜金額として入力しなければなりません。
例1.簿価400円の建物を300円で売却するケース
消費税込みの売却価額にしてみました。
税込経理ならば、以下の仕訳になります。
現預金/建物 300円
固定資産売却損/建物 100円
税抜経理ならば、以下の仕訳になります。
現預金/建物 286円(本体価格の課税売上)
現預金/仮受消費税 14円(消費税分の課税売上)
固定資産売却損/建物 114円(対象外)
まとめ
難しいのは間違いの元なので、なるべく税込経理をするに限ります。
どうしても税抜経理にしたいのなら、上記の仕訳がわかる経理担当者ならば、安心して税抜経理を選択できます。もしチンプンカンプンでしたら、税込経理にしておいた方がいいですよ。
補足説明
決算書や試算表を税抜で作成するか、税込で作成するかの違いが、税込経理と税抜経理です。そして、税抜経理の場合には、ひとつひとつの仕訳を、税込金額にするか、税抜金額にするかという選択があります。
追記
消費税の基本的な説明は、こちらをご覧ください。
» 消費税のまとめ – 税理士の長谷川
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近藤唯史 2008-05-27 15:01
少し古いエントリーへの質問になってしまい、申し訳ございません。
経理実務を勉強中の者です。
仕訳についての調べ物の際にたどり着きました。
大変わかりやすい解説でためになります。
一点教えていただきたいのですが、
「簿価400円の建物を300円で売却するケース」で、
税込み処理と税抜き処理とで、売却損の金額が
異なってしまうのに、違和感を感じてしまいます。
私も以前全く同じようなケースに直面し、
現預金/建物 286円(課税売上)
/仮受消費税 14円(課税売上)
固定資産売却損/建物 100円(対象外)
のような仕訳を想像して、建物の残高が消費税分残ってしまい、
大変混乱してしまったことがあります。
3行目貸方の建物を114円とすることで、建物の残高が
なくなるので、なるほど!と思ったのですが、
そうした時に売却損が変わってしまっていいのかなと
いうことも感じました。
感覚的なものなのですが、どうも理解しきれていない感じが
あります。この辺りを教えていただければと思います。
お忙しい中、不勉強で的外れな質問だったら申し訳ありませんが、お時間のある時にご教授いただければ幸いです。
よろしくお願いいたします。
長谷川 俊樹 2008-05-28 10:24
近藤唯史 様
ややこしい話なので、読み直して、何を書いたのか思い出したところですw
私がこの記事を書いたのも、まさに、最後のケース(税抜経理にて税込金額で売却した場合に半端な固定資産売却損が生ずる)を珍しく感じたからです。なので、こんなマニアックな論点に、共感してくれる人が現れたということで喜んでいます。
>売却損が変わってしまっていいのかな
税込経理と税抜経理の違いによって、様々な勘定科目が違ってきます。代表例として、売上高も、税込なら105だけど、税抜なら100円になります。そして、資産勘定に消費税があると、両者で利益が変わることが避けられません。ちょうどこの話の棚卸資産版を以前に書きました。
http://t.has.jp/2007/09/tanaoroshi-zeinuki/
というわけで、売却損が変わってしまっても何ら問題ないと考えます。
>この辺りを教えていただければ
次に、最後のケースは、会計ソフトは複合仕訳が苦手なので、3行の単仕訳になっていますが、こうなった判断の順序について。最初に、外部取引と内部取引に分けます。外部取引は、上2行の現預金の入金ですね。次に、内部取引は、3行目、帳簿操作ですね。そして、固定資産税売却損や、固定資産税除却損などの科目は、差額概念だと思います。資産勘定に残ってしまった差額を消すためにあると考えています。
後で問題が生じない仕訳ならそれが正しいというと身も蓋もないので、あえて説明するとすれば、上記のようになります。
※こういう税務の話題は、ネット上に書く人が少ない割に、実務の需要があるようです。
近藤唯史 2008-06-02 20:39
近藤です。
非常にすばやいご回答をいただき、本当にありがとうございます。返信が遅くなってしまって申し訳ありません。
ご回答いただいてから自分の中で落ち着いて整理してみて納得がいきました。
売上高も変わるものというのは尤もだなと思います。
仕訳のハンドブックのようなものを見ると、
売却額の消費税分は売却損益には加算せずに計算している例があり、それを税込/税抜で考えるとやはり損益は変わるもののようです。
お忙しい中ご回答いただき、本当にありがとうございました。
K 2012-04-06 00:01
個人的には、貸方に来る資産a/cはせっていでそもそも税抜きにしておくのがベストで一番簡単だと思うのですが、ソフトによってはできないのかな・・・?