重要性が低いから簡略化する具体例を一つ紹介します。
経理を円滑に進めていくためには、何が重要なポイントで、何が重要でないポイントなのかを知る必要があります。経理が不得手ならば、重要でないことは切り捨てた方がいいでしょう。経理が得意でも、時間に限りがある以上、重要性と手間暇のバランスを考えることになります。
正しい社会保険料の仕訳
学校の簿記では、給与の仕訳で社会保険料は、従業員から預かる金額なので、預り金勘定に計上すると習います。
(給料手当)/(社保預り金)××× 本人負担分
そして、翌月、従業員負担分と会社負担分を合わせた社会保険料を納めます。
(社保預り金)/(現金預金)××× 本人負担分
(法定福利費)/(現金預金)××× 会社負担分
これが正しい事に異論はありません。
ありがちな間違い
ところが、正しい処理をしていると、(社保預り金)勘定によくわからない残高が残ってしまうことがあります。複合仕訳が苦手な人は多いものです。前月の数字を確認し忘れることもあります。実際によくみかけるミスです。
せっかくの正しい処理でも、(社保預り金)勘定の残高を間違えてしまっては、台無しです。しかも、間違いの原因を解明するには、それなりの時間を要します。
現実的な仕訳
それならば、最初から給料の仕訳をこうしてみたらどうでしょう。
(給料手当)/(法定福利費)××× 本人負担分
翌月、社会保険料を納める仕訳は、1本だけになります。
(法定福利費)/(現金預金)××× 社会保険料
メリットは2点。面倒な複合仕訳をしないで単仕訳ですむこと。(社保預り金)の残高を管理する手間が省けること。
デメリットは、社会保険料の従業員負担分が一月分ずれること。
おわりに
経理部が充実している大企業でもなければ、経理が苦手な人や、経理意外にもやらなければならないことが沢山ある人にとって、これで充分ではないでしょうか。
経験上、税務署は、税務調査で、こういった些末な期間損益のずれについて、とやかくいいません。もし、この程度のことを問題にしてくれたら、それだけ時間が稼げてラッキーというものです。
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あびこ 2008-05-17 16:56
はじめまして。
ためになるお話ありがとうございます。
ところで、以下の分の意味がよくわからないのですが、
ご解説いただけませんでしょうか。
デメリットは、社会保険料の従業員負担分が一月分ずれること。
長谷川 俊樹 2008-05-19 09:44
あびこ 様
お読みいただき、ありがとうございます。
そうですね、肝心なところが、ちょっと説明不足で済ませてしまった感があります。結論としては、たいしたデメリットではないと思います。以下、順番に説明してみます。
会計の大目的の一つは、正しい利益を計算することです。そのためには、収益や費用をどの会計期間に割り当てるかという期間配分の問題があります。
社会保険料は、月末締めの翌月末払いになっています。今月支払った給料から計算される社会保険料は、翌日末日までに納付するという意味です。では、今月支払った給料から計算される社会保険料は、今月の経費とすべきでしょうか?翌月の経費とすべきでしょうか?決算月には、これを考えなければなりません。
発生主義の考えからすると、今月の経費にしていいのかもしれませんが、法的な納期限がまだ到来していないため、実務的には、翌月の経費にすることが多いと思います。つまり、社会保険料は、支払った月の経費にします。記事中の「正しい仕訳」がそうです。
ここまでが、あびこ様の質問に答えるための前提条件になります。
そうすると、社会保険料を支払った月の経費にするという基準ならば、従業員から預かる分の社会保険料も、同じように、支払った月の経費にすべきだと考えられます。会計的な常識判断として。だけど、私が紹介した「現実的な仕訳」では、従業員から預かる分の社会保険料を、翌月ではなく、当月の費用に計上してしまいます。
会社が従業員に代わって納める社会保険料と、従業員から実際に預かる社会保険料は、本来、紐付け関係にあるのですが、これが一月分ずれてしまうというわけです。
毎月の社会保険料が同じでしたら、このデメリットはありません。会社が支払う給与総額が増えたり、減ったりしている場合に、利益が違ってきます。
※会計の話をうまく説明するのは、難しいですね。これで、納得できるでしょうか。
初心者 2008-10-08 09:59
従業員預り金のことがよくわからなくて、いろいろ探していてたところです。教えて下さい。
今まで作成していた営業所売上表は単純に損益=売上-(従業員給与の総支給額+家賃等の経費)の簡単な表です。
それに今回法定福利費を経費計上してといわれました。
いままでは、法定福利費の代わりに単純に総支給額を計上していたはずなのに、法定福利費を計上したら、2重に経費計上しているように思えるのですが、上司は違うといいます。
基本的なことですみませんが、従業員預り金はあくまで預り金なので、経費ではないと理解していたんですが・・・
一本の仕訳だと、すべてが法定福利費になって、経費になってしまうような気がするのですが。
従業員が負担する分も法定福利費で経費にして、売上から引いてもいいんでしょうか。
税務上はそれでいいということなんでしょうか?
長谷川 俊樹 2008-12-22 17:48
初心者さん
すいません。コメントに気がつかず、今頃になって。多分こういう疑問かなと予想して書いてみます。
社会保険は、半分を従業員が負担し、半分を会社が負担します。会社の経費として法定福利費に入っている金額は、半分の会社が負担している分なのです。
社会保険の扱いに関しては、税務も会計も違いはありません。
長谷川 俊樹 2012-10-25 11:37
質問があったので、こちらに回答させていただきます。
①
記事では、金額を×××とごまかしていますが、社会保険料の本人負担分に対して、会社が納める社会保険料は、約2倍になります。
②
デメリットの社会保険料の従業員負担分が一月分ずれるというのは、日付と何月分を書いてみれば、わかりやすいですね。
前提として、社会保険は、その月の分を翌月末日に納付するということがあります。
○正しい仕訳
8/20(給料手当)/(社保預り金)××× 本人負担分 8月分
そして、翌月。
9/30(社保預り金)/(現金預金)××× 本人負担分 8月分
9/30(法定福利費)/(現金預金)××× 会社負担分 8月分
○現実的な仕訳
9/20(給料手当)/(法定福利費)××× 本人負担分 9月分
9/30(法定福利費)/(現金預金) (2倍) 社会保険料 8月分
③
こういった話は、それほど体系的な話ではないので、勉強できる本などはないと思います。簿記の勉強をしていない人にとって、わかりやすくて、間違えないようにするためには、どうすればいいか、という話です。