私がこの本を手に取ったのは、このリンク先が異常に面白かったからです。
» 「ぐれたい」から始まった再生機構への道 (Road to CEO):NBonline(日経ビジネス オンライン)
この本は、経営の現場レポートから会社のあるべき姿の提言まで俯瞰しています。こういう本を読了したからには、なにがしかのアウトプットをしておかなければという気にさせられました。
表紙はe-honさんからお借りしています。
» 会社は頭から腐る―あなたの会社のよりよい未来のために「再生の修羅場からの提言」
まずこの著者の学歴が完璧です。東大法学部、司法試験、スタンフォードMBA。こういう学歴を持ちながら、この学歴を有利に利用するのではなく、現場で真剣勝負していく、という著者は、間違いなく格好いいです。帯の顔が恐いから読むのを止めようと思った人は勿体ないです。他の写真はもっと笑顔ですよ。
人はインセンティブと性格の奴隷
著者の最初の主張は、「人はインセンティブと性格の奴隷である」です。ここでは、著者が産業再生機構のCOOになるまでのキャリアが描かれていますが、私が注目したのは、次の2点です。
1点目、P12.コンサルタントとして現場に赴任して最初の状況
当初、組織はみじんも動かなかった。それこそ、微動だにしないのだ。
笑えます。これだけの学歴を有していながら、この状況に直面しているのが。だけどですね、わざわざ本に書いてまで、現実に向き合うという意思が凄いですね。人は見たい現実を見ると警告していますが、自分がどれだけ正しく現実を認識しているのか、考えさせられます。
2点目、私は大組織に勤めた経験がないので、大企業の組織人がここまで考えているとは知りませんでした。
第一の判断基準は、明らかに…儲かるか儲からないかではない。…99%は、この案件をどう無難に処理するか、あるいは処理したことにするか、という点だった
会社の腐り方
この本の主題は、日本的経営がうまくいかなくなっていることに対する警鐘です。既得権益、企業不祥事、就職氷河期、人材の流動性がない、大企業経営者の能力が劣る、ガバナンスが機能していない。どれも、話には聞いていましたが、この本ほど、企業の裏側というものを詳細に説得力を持って語っているのは初めてです。
日本経済とか大企業とか、私にとっては話が大きすぎますが、著者が提言するようにすぐに世の中が変われるとは思えません、残念ながら。そうすると、こういう状況の中で、自分はどう生き残っていくのかを考えながら読むというスタンスになります。
会社が対峙する三つの市場
そんな中で、私の印象に残ったのは、会社は三つの市場と対峙しているという話です。「製品・顧客市場」、「資本市場」、「人材市場」。なるほど、三つの市場のバランスを取りながら、商売をしていると。
試しに税理士業をこのスキームで分析してみましょう。
顧客市場については、サービスが専門的なので顧客が比較しづらく、顧客の移動がゆっくりなので、長期的にみなければなりません。段々とこれからは知り合いだから頼むというだけでなく、税理士が選ばれる時代になっていると思います。
資本市場については、税理士業は、ほとんど資金を必要としないので、無視できます。机、パソコン、電話があればできます。金が入り用な時は銀行から借りるということで。貸してもらえる範囲に収まっていないとしたら、何か問題があるといえます。
人材市場については、大きな事務所になってくると、重要になるでしょう。5人以下の少人数事務所なら、所長の実力で決まるから、優先度は低くて済むと思います。昔からこの業界は、給料の割に優秀な人材が来ると言われています。ただ、事務所の特色がきちんと打ち出せているところが少ないので、売り手から見ると、結局、とりあえずできるだけ大きい事務所に就職すればいいとなりがちです。
また、根本的に税理士業界は、試験勉強のために膨大な時間を取られのが一番の問題です。試験勉強が主として暗記なものだから、実務でほとんど役に立ちません。けれども、顧客からは、税理士資格があると抜群の信用を得られる。
税理士業界のことはともかくとして、この本には、これからの時代をどう生きていくのかということを考えるならば、どんな社会人にも役に立つヒントが詰まっています。
その後の著者
産業再生機構の重役を4年間勤め上げて、すっぱりと解散した後、著者がどうしているのかは、ネット上で探ることができます。著者略歴に書いてあった新たに創業した会社というのはこちらです。
» 株式会社経営共創基盤
資本金が56億円!? 書き間違いではないようです、私にとっては異次元の世界ですが。他に負けないキャリアがあるとはいえ、いきなり大きく始めてます。商売は小さく始めて大きく育てるといいとどこかで読みましたが。その逆を行ってますね。産業再生機構の資金10兆円と比べたら小さいといえるのかな。コンサルティングだけでなく、投資もするし、安定して人材を育てていくために必要なのでしょう。
やっぱり世の中に金は余っていて、実績のある人には、その金が集まってくるということなのか。利益を得たのではなく、投資資金としてですから、著者には投資家を儲けさせる重荷がかかるでしょうけれども。
これからのご活躍を楽しみにしています。
追記
著者が語る経営とは何かという課題に対して真っ正面から書いた記事がありました。私がそこまで筆を進められなかった論点だけに、参考になります。
» 『会社は頭から腐る』 再生の修羅場から紡ぎだされた冨山和彦の経営観 – Casual Thoughts
CreativeCommons Attribution-NonCommercial-NoDerivs License, Marc Barker
長谷川 俊樹 2007-12-06 01:00
タイトルから連想して木が腐った写真にしたら、雰囲気が悪くなってしまいましたが、この写真は、この本や著者のことを表しているのではありませんので、気を悪くしないでください。