最近またこう思うことがありました。保険の代理店は本当に営業がうまい。

例えば、設立後、1~2年の会社の社長から必ず相談されることがあります。「保険に入ろうと思いますが、どうでしょう?」 しかも、相談された時点で、大概の社長は、既に入る心づもりでいます。念のため、税務上の処理の事など聞いておこうというわけです。

結局、相談の結論は「入りたければどうぞ。いいと思います」になるのですが、私なりに保険について思うところを書いておきます。

なお、ここに書くことは私見ですので、違う価値観の人には当然違う結論になります。ただ、どういう価値観を前提にどういう損得計算をしたならば、そういう結論になるのかという道筋を明らかにしたいのです。

保険の本質は、掛け捨てと積み立て

最初に、私が考える保険の本質についてです。どんな保険商品も、二つの要素から成り立っています。掛け捨て保険と積み立て保険です。

二つの成分を分離するのは、難しい数理計算が必要なので僕にはできませんが、二つの要素から保険商品が出来上がっているのは、外観から推定できます。例えば、長期の定期保険を途中で解約するといくらか戻ってきます。この戻ってくる部分は、積み立て保険だったのです。

掛け捨て保険の仕組みは、競馬の馬券と同じです。...仕組みがですよ仕組みが。人の命が馬と同じだとは言ってませんので、そこは絶対に誤解しないでください、念のため。

掛け金の総額から3割だか4割の上前を取り、残りを当たった人に配当しています。その上前で全社員の給料を払ったり、本社ビルを建てたりしているのです。

上前を取られるということは、平均すると必ず損していることが自明です。損をするのに、なぜ成り立つのか?という疑問がわきますが、それは経済学でうまく説明されています。リスクを取ることが好きな人は馬券を買い、リスクを取ることが嫌いな人は保険を買うと説明されています。

だから、保険を買うと意思決定した人は、どんなリスクを避けるために保険を買うのか、合理的に説明できる筈なのです。後で中小企業の社長にとってのリスクを検討します。

もう一つの要素、積み立て保険は解約できない定期預金です。いや実際にはいつでも解約できるんですが、事前の計画と違う解約をすると元本割れする定期預金になります。後で中小企業が解約できない定期預金をする必要性があるのか検討します。また、積み立て保険は節税手段として注目されるので、この辺も後で検討します。

掛け捨て保険でリスクを回避

先ほど、掛け捨て保険はリスクを取ることが嫌いな人が買うと書きました。つまり、掛け捨て保険を買うことによってリスクを回避することができる。それが保険の商品価値になります。これは、保険にしかない機能で、必要な状況もそれなりにあると思います。

具体例を考えてみますと、社長に万が一のことがあると家族に借金だけが残るとか、従業員に万が一のことがあっても、死亡退職金を払うお金がないとか、です。銀行が住宅ローンを貸す時も、生命保険に入らせます。

だから、そんな万が一の事態がもし現実に起こったらどうしよう、考えただけでも心配だ!不安だ!という人で、なおかつ、4割差し引かれてもいい人は、そのリスクを避けるために掛け捨て保険に入るべきです。これが正しい保険の使い方。

逆に正しくない使い方としては、例えば、退職時に備えてというのは、リスクとは言いません。それはもう事前にわかっていることです。年齢が一定に達 したら退職するというのは既定事実です。その時に備えて、貯めておけば済む話です。他にも例えば、無借金の人やお金がある人は、別に保険に入る必要ないで すよね。従業員の退職金だって、遺族と話して分割払いにすることもできます。そのほか、同族会社で、同族が何人か参加している会社は、社長にもしものこと があっても、身内が代われるので、創業社長一人の会社よりずっとリスクが少ないです。

今書いていて気がつきましたが、必要以上に保険に入るのは、ギャンブラーが馬券を買うのと同じですね。リスクを取ることが好きで楽しんでいるといえます。一攫千金を夢見ているのです。どんなギャンブルなのか想像するだけでも恐ろしいです。

ある程度お金を持っている人は、それでリスクを回避できますし、要するに、リスクを避けるためというのは正論だけれども、世の中に溢れかえる保険ほどには、実際に回避したいリスクはそんなに存在しないと思うわけです。

積み立て保険は資産運用の一種

次に積み立て保険について考えます。積み立て保険は、純粋な資産運用の一種です。自分のお金を保険会社に運用してもらっているのです。

資産運用をするといい人というのは、将来も資金が要る予定がない人です。具体的には、公務員とか終身雇用の大企業の会社員が、余ったお金を何に運用しようかと考えるケースです。

これから何が起こるかわからない中小企業には、生命保険で回避できる以外のリスクが沢山あります。何が起きるかわからないけれども、お金があれば回避できることが多いです。

それに、自分のビジネス=夢を信じて仕事をしていれば、何時なんどきビジネスを拡大するチャンスが訪れるかわかりません、その時必ず少しでも多くの 資金が必要になります。私だったら保険会社の運用担当に小さな夢(利回り年数%)を託すよりも、自分のビジネスに全額を賭けます。

どんな社長でも、話しを聞いてみると、将来もう一店舗持ちたいとか、会社を大きくしたいとか夢があります。そんな話をしていた人から保険に入るって聞かされると夢の話はどうなっちゃったんだろうと嘆きたくなります。保険によって最悪の事態を回避することはできますが、保険でビジネスが成功することはありません(保険会社及び保険代理店を除く。別の意味で)

さて、熱くなりましたが、積み立て保険による節税についてもふれておきます。本当にお金が余っている会社にとっては、積み立て保険は、節税に成り得ます。途中で資金が必要になってしまったら、ご破算です、前提条件を満たしていません。

それに、支払時に損金算入できればですけれども。これは国税庁と保険会社でイタチごっこが繰り広げられています。そんなに節税できる抜け穴があったら、いつまでも国税庁が放っておかないんですね、残念ながら。あれこれ通達が出ています。

結論

こうして考えてみると、ほとんどの保険は、掛け捨て保険と積み立て保険の二つの要素が混ざっていると思いますが、お金がない人に必要とされる掛け捨て保険と、お金が余って資産運用している人が選ぶ積み立て保険が一緒になっているって、どんなニーズなんだろうと不思議です。

私の考え方で導き出される結論では、ほとんどのケースで、圧倒的に保険が過剰です。だから、必要なくても買う気にさせる保険の営業マンは本当にすごいなと感心します(ビジネス的な意味で)。

あとがき

この記事では、リスクという経済学用語の意味が重要なのですが、言葉が正しく使えているかどうか、ちょっと自信ありません。変なところがありましたら、ご指摘ください。

参考

生命保険は掛け捨てにしなさい!―続出する生保破綻の乗り切り方昔読んだ本。この記事の種本ともいう。


生命保険入門生命保険についてはこの本も話題になりました。が、すいません。この本を読まないで書いてます。


注目のブログはこちら。
ネット生命保険 立ち上げ日誌
明晰な頭脳で保険について合理的に説明してくれることを期待してます。

Horse racing
CreativeCommons Attribution-NonCommercial-NoDerivs License, François Lafite

公開2007-06-16 経営全般