現金出納帳を書くことが、簿記の最初の第一歩です。現金出納帳を書くだけなら、難しい複式簿記の知識は必要ありません。現金の入金と出金を忠実に記録するだけです。こんなに基本的なことなのですが、意外な考え方の違いがあるので、その辺をはっきりさせておきましょう。

領収書の日付方式

現金出納帳の日付には、どの日付を書けばいいでしょう? 領収書の日付を書けばいいと思いますか? では、これを、便宜的に、領収書の日付方式と名付けます。

領収書をみて経理をするのですから、日付は簡単に確認できます。領収書が日付順に並んでいるときれいに整理整頓されていると感じます。そして領収書の並び順と現金出納帳の並び順が同じなら、後でチェックができます。

後日まとめて現金出納帳をつけていると、領収書の日付方式が正しいと思えてきます。ちょっと簿記の知識があると、陥りやすい考え方です。

精算の日付方式

なぜ領収書の日付方式を私が間違っていると考えるかというと、事実をそのまま記録するという簿記の最も重要な役割に反する場合があるからです。実際の経費の記帳においては、買った人と会社の現金担当者との間で、精算するという行為があるからです。

最初に現金を支払って領収書を受け取ったのは、経理担当者ではなく、買った人です。買った人が現金担当者のもとで精算したときに始めて経理が現金を出金します。なので、現金出納帳の日付は、領収書の日付ではなく、領収書を精算した日にすべきです。これを、精算の日付方式と名付けます。

ちなみに、領収書の日付=精算の日付のときは、どちらの方式も同じ結果になります。

普通に経理機能がある会社ならば、自然と、精算の日付方式が採用されるものです。なぜなら、精算の日付方式を採用しないと、毎日の現金残高が合わなくなるからです。現金を管理している担当者にとって、日々の現金残高が合わないことは、最悪の事態です。

実際の出納帳の書き方

それでは、精算の日付方式は、どうやって記帳すればいいのでしょう。別に難しくありません。領収書の日付を摘要欄にメモとして書いておくだけです。

一人会社の罠

領収書の日付方式になってしまうのは、社長一人で会社をやっているような場合です。会社の現金をちゃんと管理していないからです。

現金の管理をしていなかったら、そもそも帳簿としてダメなのですが、その場合でも、現金の管理をしていると想定して記帳します。よくある本音とタテマエです。

一人会社の場合、領収書の日付方式と精算の日付方式のどちらの方式でも想定することができます。

・領収書の日付方式
社長の財布と会社の現金が渾然一体となっていると考え、実際に支払った日=会社が支払った日と考えます。

・精算の日付方式
現金が渾然一体になっているのはおかしい。例え、実際に用意してなくても、会社には会社の現金があることにしなければいけないと考えます。

こうして比べてみると、やっぱり社長個人の財布と会社の現金が一体となっていると想定するのは、無理がありますね。一人の会社でも、普通に経理機能がある会社を想定するのが、自然ではないでしょうか。

日付を重視する理由

熱心に書き進めてきましたが、どっちでもいいのではないか?と疑問に思うかもしれません。

なぜこの方式の違いが重要かといいますと、いついかなる理由があろうとも、現金の残高をマイナスにすることができないからです。もし現金の残高がマイナスになっているのを税務署にみられたら、その瞬間、この帳簿は後からてきとうに作ったものだ、と認定されてしまいます。帳簿の信頼性が根本から揺らいでしまうのです。

中には、本当に現金がマイナスになったと、おっしゃる人もいるかもしれません。それは、足りない現金を誰かから一時的に借りていて、その事実を記帳もれしているだけです。一時的なものでどうせすぐに返すのだから記帳しなくていいというルールはありません。

日付がどちらかという話よりも、現金がマイナスにならないようにすることの方が重要なのです。

精算の日付方式にせざるを得ないケース

現金の残高が少ないのに、領収書をたくさん持ってこられた場合に、この方式の違いを理解していないと、困ったことになります。

現金がなかったら、担当者は必ずこういいます「今お金がないので、入金されるまで待ってください」と。そして、現金が入金してから、経費の領収書を精算します。必ずそうしているはずです。

その事実を正しくそのまま記録するためには、精算の日付方式にするしかありません。

まとめ

簿記のルールには、どちらの方式にしなければいけないとは書かれていません。ただ、出納帳を書く前提としてどういう事実関係があったのか、もしくは、あったと想定するのかという違いです。

領収書をその日のうちに精算しなければならないというルールはないのです。領収書をその日のうちに精算しているのか、それとも、ときどきまとめて精算しているのか、その都度、選んだらいかがでしょうか。

精算の日付がいつだったのかを柔軟に想定して、事実と帳簿に矛盾のない記帳をしていきたいものです。

あまり教科書に載っていない基本的なことですが、実務では重要なので、文書化してみました。

追記

現金出納帳の基本的な書き方を以下にまとめました。
» 出納帳・仕訳帳の書き方 – 税理士の長谷川

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by _moonpie

公開2009-05-26 会計